


福岡市博多区にある鉄筋コンクリート造地上6階建て集合住宅のリノベート計画です。コンクリートの構造躯体以外の仕上げ・設備などは全て一度撤去され、構造的な補強が施されつつ、内外装、電気や給排水に関わる設備、内部のプランニングは完全にリニューアルされています。クライアントからは、築30年を超える建築を、さらに70年以上の長期的なスパンで利用可能にすることが望まれました。
計画当初は既存の建物を取り壊して新たに新築することも検討していましたが、法改正により現在よりも大きな建物を建てることが出来ないことなどのわかっていたため、既存の躯体を利用してリノベートすることが可能かどうか、構造的、設備的、事業的な検討を行うことになりました。
1. 躯体
まず、「コンクリートが建築物の構造体としての強度を有しているか」調査を行いました。各階の躯体のコア抜き(躯体に直径10cm程度の穴をあけコンクリートのサンプルを採取します)を行い、採取したサンプルの圧縮強度を調査したところ、全箇所において建設当初の設計基準強度を上回っており、躯体の中性化や塩化物量なども許容範囲内であることがわかりました。また、既存建築物の実測し、現行の基準に基づいた耐震診断を行ったところ、RC造の耐力壁と鉄骨のブレースをバランスよく配置することで、室内の居住性を損なうこと無く構造的な強度を確保できることがわかりました。また、耐震性能を高めるために建物を軽量化することが(壁を解体したり、壁に穴をあけること)、プランの自由を高めることに繋がることもわかりました。
2. 設備
次に、設備的な検討を行いました。集合住宅を100年以上の長期的なスパンで利用を想定する場合、躯体の強度を確保することと同様に、設備的なメンテナンス性を確保することが大切になります。構造体自身は適正に外壁仕上げや防水を保守し、躯体を雨水の侵入から守れば、かなりの時間的スパンで強度を確保することが出来ます(コンクリートの劣化は、雨水侵入による躯体内部の鉄筋が錆びてしまうことが大きな原因となります)。しかし、給水管や配水管などの設備配管などは、劣化や社会的なニーズへの対応のため、一般的に20〜25年に一度のペースで何らかの大規模な改修が必要になると言われており、設計段階でどのような設備計画を行っていたかが建物の寿命を大きく左右します。幸いにこの既存建築物は、各階の共用廊下の幅員が通常よりもかなり広く確保されていたため、電気・給排水設備の縦系統配管(上下階をつなぐメインの配管)を全て共用廊下側へ集約することができることがわかりました。これにより、完成した建築物は、外部足場などの設置せずに、容易に設備のメンテナンスができるようになっています。
3. プランニング
最後に事業的な検討を行いました。既存の建物では住戸プランや広さが画一的であること、明確なエントランスなどがなくセキュリティー確保が難しいこと、住戸数に対して駐車台数が少ないことなど、改善が必要だと思われる点がいくつかありました。しかし、JR博多駅や福岡空港などの主要交通拠点へ近く、建物の北側に大きな公園があるなど、私たちが設計することができない敷地の外側には、生活の場として、仕事の場として、とても魅力的な環境がありました。既存の住戸プランは、南側前面バルコニー+北側片側共用廊下、その廊下側にキッチンやトイレ、浴室などの水廻りが集中していました。この状態では、(桁行方向の大梁の梁せいが大きいこともあり)生活の中心となるキッチンやその周辺の居住性は決してよいとは言えません。そこで、新たな住戸プランは、住宅の共用部(リビング・ダイニング・キッチンなど)を南側(外気に面した位置)に配置しています。また、単なる住居として以外の利用を想定したゾーニングになっていることも、この計画の特徴です。このようなプランは、リノベートする物件だからこそ、可能なのではないでしょうか。また、北側に公園がある立地条件を活かし、全ての住戸でペットとともに暮らすことができるようになっています。
以上の構造的、設備的、事業的な検討により、この建築物は既存の躯体を活かした状態でリノベートすることとなり、最終的にはこの場所に根ざした、27の住戸を持つ建物として完成しました。
私たちは、ただ単に古いものを新しくするだけでなく、その地域や建物を新しく解釈し直すことで、まちの中に今までには描くことのできなかった、新しい生活像をつくっていきたいと考えています。