今年のデザイニング展では、「NEW VALUE DESIGN」という企画展示を行っています。商業施設以外の場所で、事務局主体の展示を行うことは初の試みです。会場では、私たちが「次の時代の新しい価値」と思えるものを、世界中から集めました。何が新しい価値なのか、それを明確な言葉にすることはとても困難ですが、みなさんと一緒に、これからの時代の新しい価値について、考えることができたらと思っています。展示は今週末5月22日(日)まで行っていますので、お時間の許す方は、是非、お立ち寄り下さい。
>>>以下、展示物の解説です。
edition HORIZONTAL|エディション・ホリゾンタル
ファニチャーレーベル「E&Y」が発表した新しいコレクションライン。多様性を意味する「multiple/マルチプル」をその哲学として、「モノ」であることと同時に、使う側によってそれ以上の「何か」になり得る作品が制作された。決して「家具」や「プロダクト」といった従来のカテゴリーにとらわれたものではなく、「モノ」を手にするという行為や使うといった行為が持つ喜びや本来の意味を問いかけるものになっている。
E&Y(イー・アンド・ワイ)は、主に家具の開発を行う会社だ。ファニチャーレーベルとして「家具」を作ってきた会社が、新しいコレクションで、いわゆる家具的なものを開発しなかった。彼らは「明確な機能がある訳ではないから、それがなくても生活に困ることはないけれど、あると少しだけ生活を豊かにしてくれたり、新しい気付きを与えてくれるものをつくりたかった」と説明し、それを「multiple / マルチプル」と呼んだ。発表されたものは、文字通り「モノ」であり、これらのモノたちに、明確な用途や機能はない。家具レーベルのコレクションなのに家具がない状態は、それ自体が時代への批評性を含んでいる。これから彼らが発表するものは、この「HORIZONTAL」という価値の延長線上に置かれることになる。明確な用途や機能をもったものでさえも、まったく違った景色に見えるかもしれない。
>>>edition HORIZONTAL
ダンボール・ハイ|Cardboard High
織咲誠が考案したダンボールへの手作業での折り加工を可能にする道具である「or-ita(オリタ)」を使用して、制作された作品を集めたエキシビジョン。以前は工場に発注する必要があったダンボールの折り加工を、or-itaによって自在につけることが可能になり、その可能性に着目した岡田栄造が展覧会を企画した。or-itaとダンボールが持っている可能性を、or-ita考案者の織咲誠を含む6組の作家が作品として発表した。
岡田栄造は、1999年よりデザインニュースサイトdezain.netを運営し、10年以上、ひとりで、毎日、更新し続けている。この「ダンボール・ハイ|Cardboard High」は、彼がディレクション・キュレーションした展覧会である。織咲誠が発明した「or-ita(オリタ)」に感銘を受け、その試みに共感する人を増やすことを目指して企画された。「DEROLL Comissions Series」などのプロジェクトと同様に、これらのプロジェクトは全て、自発的に始まったプロジェクトである。つまり、クライアントは「彼自身」であり、その全てが彼自らの資金(自腹)で賄われる。彼が個人的に信頼できるデザイナーにデザインを依頼し、制作し、発表する。プロジェクトのことをたずねると、彼は笑いながら「贅沢な趣味ですよね」と、自身が関わるこれらのプロジェクトのことを語ってくれた。
>>> Cardboard High
Atelier NL|アトリエ NL
オランダを拠点に活動するNadine SterkとLonny van Ryswyckからなる2人組のユニット。2006年、the Design Academy Eindhoven(デザイン・アカデミー・アイントホーフェン/オランダ)を卒業した Nadine SterkとLonny van Ryswyckの二人によってAtelier NLが始動。現在2人はEindhoven(アイントホーフェン/オランダ)にある、元教会の建物を住居兼アトリエとして暮らしている。Nadine Sterkは自然や技術、感情をキーワードとして作品を製作している。彼女は絶えること無い豊かなアイデアを、自然が持つ機能や問題解決の手段の中に見い出し、そのインスピレーションを多様で実現可能なデザインに翻訳することを通して、人々の関心と思いを引きつける物をつくりあげる。Lonny van Ryswyckのデザインプロセスにとって鍵となっているものは、観察、思考、実現。Lonnyの発想の原点となっているものは、多くのひとたちが当然だと考える日常の物や、気づかれることのないディテール。人々の中にある、過小評価されている価値や経験の認識を呼び起こすことが、Lonnyの創造の原点になっている。
Atelier NLが手掛けていたプロジェクトの中でも、継続的に行われている、オランダ内の異なる土地の粘土を堀り、かたちづくり、焼成することを中心としたDrawn from Clayという一連のプロジェクトは、”場所”というものが持つアイデンティティを、土そのものが持つ色の陶器を作成することによって示すというものである。そこから派生したこのFundamentals of Makkumのシリーズも同様に、オランダ全土の各地より異なる8ヶ所が選ばれ、その土地で採取された土によって製造されている。各器が示す色はその土が存在する”場所”の持つアイデンティティそのものであり、一連の製品としてのシリーズはオランダ最古の陶器メーカーであるマッカム社のアイデンティティを示すものでもある。
>>> Atelier NL
永井 敬二 | KEIJI NAGAI
永井氏と初めてお会いしたのは、2006年冬のことだった。当時、福岡で発行されていた、あるファッションのフリーペーパーに建築やデザインを紹介するコラムを書いており、その取材でのことだった。初めて氏の事務所に訪れたとき、その室内は、椅子や照明、時計や食器などで溢れていて、とても驚いた。その中には、ニューヨークのマクドナルドで使用されていた使い捨ての灰皿や、スイスの列車で使用されたPP製のカップなど、誰がデザインしたのかわからないものまであった。身の回りにある何気ないものにも美しさを感じるという氏は、「デザインとは収集するだけの対象ではなく、コミュニケーションのツールなのです。私にとって、もの探しの探偵ごっこの過程で出会う人や、交わされる会話が大切なのです。」と教えてくれた。
[TEXT|井手 健一郎]