出雲の酒蔵

2021/12/26/ 15:24:56

出雲の酒蔵

 出雲を拠点に手作りで酒造りを行っている酒蔵の店舗とレセプションの改修である。酒蔵の理念である「風土を醸す」とはどういうことか、ということを考えながら、全体の構成や素材選定を進め、構成と素材が合さった時の空間の在り方を探っている。

 昔ながらの地域というのは、流軸沿いに展開しているものである。出雲平野を流れ、ヤマタノオロチ伝説の元になったともいわれる斐伊川は沿いでは、約1400年前から上流の奥出雲で採れる上質な砂鉄を利用した「たたら製鉄」が行われていたという。砂鉄を採取するために切り崩した山の跡と水路を再利用してつくった棚田では良質な酒米が取れ、その酒米を使っていい酒をつくる。「風土を醸す」というのは、斐伊川によって繋がれている地域全体を感じられることではないかと考えている。

 この改修では、象徴になるようなものを直接的に表現するのではなく、日常の空間の中にあって心地よいものであり、全体として伝わってくるものを実現させたいと思っている。例えば、主な建材を出雲で昔から使われてきた松にし、酒米の収穫の際に取れた藁を左官に練り込んでつくった壁や、地元の窯元とともに酒米藁の藁灰釉で焼き上げたぐいのみなど、酒造りにまつわるストーリーを空間の中に散りばめることで、出雲のものづくりや地域文化を感じることができる状態をつくろうと考えている。また、今は蔵の前に事務所スペースがあり、通りからは蔵の様子がわからないため、手作りで酒造りをしている雰囲気が伝わるような設計も必要であろう。

 直営店の他は信頼できる酒販店にしか卸さず、人と人との繋がりを大切にしている酒蔵のスタンスや理念が自然と伝わる空間になればと考えている。

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